弁護士 新 英樹(久米法律事務所) > 記事コンテンツ > 遺言書の書き方
被相続人の財産や身分など、死後の法律関係に関する被相続人の意思表示を遺言といい、遺言を文書等にしたためたものを遺言書といいます。相続は時に「争続」ないし「争族」と呼ばれるほど、財産の帰属をめぐるトラブルが起きやすいため、遺言書を作成することによって、相続をめぐる争いを防ぐようにしましょう。
■遺言できる事項
遺言書が、法的な効力を生じるためには、民法の定めた方式に従って作成されなければなりません(民法960条)。遺言できる事項は次の通りで、それ以外の内容(例:「家族みんなで仲良くして欲しい」などの内容)は、法的な効力を持ちません。
●相続及び財産の処分
・相続分に関する事項
・遺産分割に関する事項
・特別受益の持ち戻し免除
・相続人相互間の担保責任の定め
・相続人の廃除、廃除の取消し
・遺贈
・遺贈侵害額割合の指定
・財団法人に対する財産の拠出
・信託設定
・生命保険金の受取人の指定や変更
●身分に関する事項
・子の認知
・未成年後見人や後見監督人の指定
●祭祀に関する事項
祭祀継承者(祖先の墓や仏壇などを守る者)の指定
●その他(遺言執行者の指定など)
遺言書の作成には注意点がいくつかあります。後述する自筆証書遺言で作成する場合は特に気をつけましょう。まず、一部を除き、ワープロやパソコンによる作成は認められていません。第三者に代筆させることもできません。次に、遺言は2人以上の者が同じ証書で行うことはできません(共同遺言の禁止。民法975条)。別々の遺言と認められたケースもありますが、後日問題が起こる場合があるので、夫婦といえども同一の遺言書で遺言することは避けるようにしましょう。
■遺言の種類
遺言の種類には、大別して普通方式と特別方式がありますが(民法967条)、特別方式は極めて特殊な状況下で作成されるものなので、普通方式について理解しておけば十分です。普通方式には、自筆証書遺言や、公正証書遺言、秘密証書遺言がありますが、一般的に用いられるのは、自筆証書遺言か公正証書遺言です。そのため、以下では、自筆証書遺言と公正証書遺言に関して解説します。
●自筆証書遺言
自筆証書遺言は、全文・日付・氏名をすべて自分で書き、押印した遺言書です。財産目録については、平成30年度相続法改正により、ワープロで作成する方法や、不動産登記事項証明書や、預貯金通帳の写しなどを添付する方法でも認められます。
自筆証書遺言の特徴は、費用をかけずに、いつでも手軽に作成できるという点です。しかし、前述の通り、書き方によって法的に無効となる場合があり、相続人間のトラブルを避けるために作成した遺言書が、かえってトラブルの原因となることも珍しくありません。また、遺言書を発見した者は家庭裁判所で検認手続きをしなければならず、遺言書の執行に時間が掛かる場合があります。検認手続きは、平成30年度相続法改正により創設された法務局での保管制度を利用した場合は不要です。
自筆証書遺言の作成には、いくつかの注意点がありますが、ここでは主要な点について取り上げます。判断が難しい場合もあるので、自筆証書遺言で作成する際は、弁護士等の助言を得ながら作成するようにしましょう。
【日付について】
作成年月日がない遺言書は無効です。年月の記載だけで日の記載がないものも同様です。
日付は例えば、「還暦の日」や「第何回目の誕生日」などはその日付が特定できるので認められますが(もっとも、出来るだけ紛らわしい書き方は避けた方がよい)、「令和〇年○月吉日」のような日が特定できないものは無効です。
【氏名について】
戸籍上の正しい氏名を書くのが原則であり、無難です。氏と名を併せて書かなくとも、氏または名だけで遺言者本人を特定できるのであれば有効ですが、登記手続きの際にトラブルが発生する場合があります。雅号または通称名で書いても有効とされるケースもありますが、やはり戸籍上の氏名を書いた方がよいでしょう。
【押印について】
遺言書に押された印鑑の制限はなく、いわゆる実印や認印、拇印でも認められます。しかし、偽造等のトラブルを防ぐため、実印を使用するのが良いでしょう。また遺言書が数枚になる場合は、各用紙の間に契印するようにしましょう。
●公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で遺言事項を口授し、公証人がそれに基づいて作成する遺言書です。基本的に公証役場へ赴く必要がありますが、病気等で出頭できない場合は、公証人に自宅や病院などへ来てもらうこともできます。
公正証書遺言を作成する場合、証人が2名以上必要となります。作成された遺言書の原本は公証役場で保管され、家庭裁判所での検認手続きは不要です。
公正証書遺言は、自筆証書遺言とは異なり、偽造・変造等の心配がありません。また公証人という法律のプロが作成するため、形式不備などで無効とされることはほとんどありません。デメリットとしては、作成費用が掛かるという点や、証人が遺言内容を外部に漏らすリスクがある点などがあります。
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