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借地権譲渡をするにはどういった条件が必要か

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土地を借りて建物を建てている場合、その土地の利用権を「借地権」と呼びます。
そして借地権を第三者に渡すことを「借地権譲渡」といいます。
一見シンプルに見えても、実際には法律上のルールがあり、勝手に譲渡できない場合があるため注意が必要です。
今回は、借地権を譲渡する際に必要となる条件や注意点をわかりやすく解説します。

借地権とは

借地権は、建物を建てる目的で土地を借りる権利です。
法的には、以下のいずれかを指します。

  • 地上権
  • 土地の賃借権

地上権の場合は、譲渡の際に地主の承諾が不要です。
大部分は「土地の賃借権」が借地権の実体となっていることから、今回はこちらを前提に話を進めます。

借地権を譲るとはどういう意味か

借地権の譲渡とは、借地人が持っている土地の利用権を第三者に移すことです。
借地上の建物を売るとき、その所有者が変われば、そのひとが引き続き土地も使う必要があります。
このとき、土地の利用権、つまり借地権も一緒に引き継がれます。

契約の中身は変わらない

借地権が譲渡される場合、必ずしも、新しい借地人と地主があらためて賃貸借契約を結ぶわけではありません。
以前の契約内容(地代、契約期間など)はそのままで、契約上の地位がそのまま移るという形です。
もっとも、必要に応じて契約内容の一部、たとえば地代や更新条件などを変更するケースもあります。
しかし、あくまでも既存契約の修正という扱いです。

借地権の譲渡には地主の承諾が必要

借地権を譲るには、原則として地主の承諾が不可欠です。
土地を貸している側にとって、誰が自分の土地を使うのかは重要な関心事です。
「支払い能力や使用方法などに不安がある相手に土地を使われたくない」というのが地主の基本的なスタンスになります。
どうしても地主から承諾が得られない場合には、裁判所に申立てを行い、許可を求める方法があります。
正当な理由があれば、地主の承諾がなくても譲渡が認められる可能性があります。

借地権者に代わる裁判上の許可の申立てを進めるための条件

借地権者に代わる裁判上の許可の申立てを利用するには、いくつか事前に満たしておかなければならない条件があります。

  • 譲渡の完了前である
  • 譲渡先が具体的に決まっている
  • 借地上に建物が存在している

それぞれ確認していきましょう。

譲渡の完了前である

借地権者に代わる裁判上の許可の申立ては、譲渡の手続きがまだ完了していないのが前提です。
建物の引き渡しや、登記が済んでいると申立ては認められません。
売買契約などを結ぶ際は、「地主の承諾が得られること」「裁判所の許可が下りること」を条件にするのが一般的です。

譲渡先が具体的に決まっている

裁判所が許可を出すかどうか判断するには、譲渡先の人物がはっきりしていなければなりません。
というのも、誰に譲るのかわからない状態では、その人物が土地の使用者として適切かどうかを評価できないからです。
「とりあえず許可を取っておいて、そのあとで相手を探す」といった手順は認められていません。
譲渡先と契約条件を特定してから申立てを行います。

借地上に建物が存在している

裁判所に申立てができるのは、「借地の上に建物が存在している場合」に限られます。
建物がない状態で「借地権だけを他人に譲りたい」と考えても、そのままでは手続きを利用できません。
上記は借地借家法の考え方に基づくもので、そもそも借地権とは、建物の利用を前提とした権利であるからです。
土地の一部を譲渡する場合でも、対象とする範囲に建物がなければ申立ては認められません。

借地権譲渡の流れ

借地権譲渡の流れは、以下の通りです。

①譲渡先を決める
②地主に許可を得る
③借地権者に代わる裁判上の許可の申立てをする
④裁判所での手続きを進める
⑤決定・譲渡のための手続きを進める

それぞれ確認していきましょう。

①譲渡先を決める

最初のステップは、借地権を引き継ぐ相手を確定させることです。
誰に譲るのかが決まっていない状態では、裁判所も地主も判断を下せません。

②地主に許可を得る

譲渡先が決まったら、まずは地主に対して正式に承諾の申し入れを行います。
基本的に譲渡承諾料の支払いを求められるため、その金額に関しても交渉が必要です。
承諾が得られれば、譲渡手続きは比較的スムーズに進みます。
地主が承諾を拒む場合は、次のステップとして借地権者に代わる裁判上の許可の申立てが検討されます。

③借地権者に代わる裁判上の許可の申立てをする

まず必要なのは、裁判所へ提出する申立書と関連資料の準備です。
申立書のひな形は、裁判所のWebサイトなどから入手できます。
ただし専門的な知識が求められるため、基本的には弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。

④裁判所での手続きを進める

申立人は主張の裏付けとして、資料や証拠の提出が求められます。
また、地主が借地権そのものの有無を否定したり、土地の境界に異議を唱える場合はその対応も必要です。
借地権が本当に存在するのか、境界がどこかといった判断は、別の通常訴訟で決める必要があります。
申立てから決定までは、おおよそ半年から1年程度かかるとされています。

⑤決定・譲渡のための手続きを進める

裁判所が譲渡を許可した場合、その決定はすぐに確定するわけではありません。
地主が裁判所の決定に納得できない場合、14日以内に「即時抗告」が可能です(非訟事件手続法第66条、第67条第1項・第2項)。
即時抗告は、通常の裁判でいう控訴に該当するもので、次は高等裁判所が審査を行います。
地主が期間内に異議を申し立てなければ、許可の決定は自動的に確定となります。

まとめ

借地権を譲渡するためには、地主の承諾が基本的に必要であり、勝手に譲渡するとトラブルになる可能性があります。
どうしても承諾が得られない場合は、裁判所の許可を申立てる手段もありますが、費用や時間がかかるため注意が必要です。
また、譲渡承諾料や契約書の条項など、確認すべき点も多くあります。
安心して借地権譲渡を行うには、弁護士などの専門家のアドバイスを受けながら、慎重に対応するとよいでしょう。