弁護士 新 英樹(久米法律事務所) > 記事コンテンツ > 痴漢した場合に問われる罪の種類
痴漢は社会的にも法律的にも厳しく罰せられる行為です。
痴漢により逮捕された場合には日常生活に影響があるだけではなく、罰金や有罪判決により前科がつくこともあります。
今回は、痴漢した場合に問われる罪の種類について解説します。
「痴漢」という言葉は、一般的には女性に対してわいせつな行為をする男性を指すと解釈されていますが、法律上は痴漢行為について加害者や被害者の性別は問いません。
痴漢とみなされる行為として、次のようなものがあります。
・公共の場所や乗物において、衣服などの上から、または直接身体に触れること
・公共の場所や乗物において、著しく羞恥させる、または不安を覚えさせるような卑猥な言動をすること
・同意なくわいせつ行為をすること
この他にも、偶然を装って相手に身体をぶつける、相手に近づいて匂いを嗅ぐといった行為も痴漢とみなされます。
痴漢した場合に問われる罪の種類について、主に以下の2つがあります。
1つずつみていきましょう。
痴漢行為に対しては、「迷惑防止条例違反」が適用される場合が多く見られます。
迷惑防止条例とは各都道府県などの自治体が定めている条例の総称で、多くは痴漢だけではなく、盗撮やつきまとい行為、不当な客引き行為などについて規定されています。
違反した場合の罰則についてはおおむね同じような内容となっており、例として東京都の場合は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金、愛知県の場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。
また、盗撮した場合や常習性があるとみなされた場合には刑罰が重くなる傾向にあり、おおむね2倍程度刑を重くする(1年以下の懲役または100万円以下の罰金が2年以上の懲役または200万円以下の罰金となる)と規定しています。
不同意わいせつ罪は刑法176条に規定されている犯罪で、令和5年7月13日の改正刑法より「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」が統合され、「不同意わいせつ罪」となりました。
不同意わいせつ罪は、被害者の同意なしにわいせつ行為を行うことだけではなく、同意しないという意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にした上でのわいせつ行為、またはその状態にあることに乗じてわいせつな行為をした場合に適用されると規定されています。
不同意わいせつ罪が適用された場合の罰則については、6ヶ月以上10年以下の拘禁刑となっており、迷惑防止条例違反よりも重いものとなっているため、留意しておく必要があるでしょう。
迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪の違いは、簡単に言えば「卑猥な行為」が行われた場合は迷惑防止条例違反、「暴行や脅迫を用いたわいせつ行為」が行われた場合は不同意わいせつ罪ということになります。
たとえば電車内での痴漢で、下着の上から触れた場合は迷惑防止条例違反、下着の中まで触れたり、キスをしたりといった状況では、不同意わいせつ罪とみなされる場合が多く見られます。
しかし、下着の中に手を入れなかったからと言って、不同意わいせつ罪は成立しないというわけではなく、下着の上から執拗に撫でまわしたといった状況でも、不同意わいせつ罪として処罰される可能性は十分にあります。
これは、不同意わいせつ罪に規定される「暴行」の定義が広く解釈されていることと、執拗に撫でまわしたという状況が、同意なしにわいせつな行為を行ったとみなされるためです。
最後に、痴漢が刑事事件となるまでの流れについてご説明します。
痴漢の多くは、被害者や目撃者による現行犯逮捕です。
現行犯の場合は逮捕状の必要はなく、私人(被害者本人や現場に居合わせた人々)も行うことができます。
また、被害者の通報を受けて捜査、痴漢の容疑が固まれば逮捕状が発行され、後日逮捕となる場合もあります。
起訴とは、裁判の開廷を提起することです。
逮捕されて警察署へ連行された後は、署内の留置場へ収監されることになりますが、逃亡や証拠隠滅などのおそれがない場合にはすぐに釈放され、日常生活を送りながら都度警察署へ呼び出されて取り調べを受けた後、起訴・不起訴の判断が下されることになります。
逃亡や証拠隠滅などのおそれがあるとして留置場へ収監された場合には、23日以内に判断が下されます。
不起訴となれば前科がつくことはありません。
起訴された後は、通常1ヶ月ほどで裁判が開かれ、審理期間を経て懲役や罰金などの判決が言い渡されることになります。
痴漢した場合に問われる罪の種類について見てきました。
痴漢は重大な犯罪であり、法律的にも社会的にも重い責任が伴う行為です。
迷惑防止条例違反として懲役刑または罰金刑を科されるだけではなく、不同意わいせつ罪が成立すれば、6ヶ月以上10年以下の拘禁刑に処せられる可能性があります。
痴漢をしてしまった、示談したいといった場合は早急に弁護士へ相談することをおすすめします。