弁護士 新 英樹(久米法律事務所) > 記事コンテンツ > 一部執行猶予制度とは?全部執行猶予との違いや要件などについて解説
刑事事件において、被告人の更生や社会復帰をどのように支援するかは重要な課題です。
その中でも「一部執行猶予制度」は、刑の一部を実際に執行したうえで残りを猶予することで、社会の中での更生を促し、再犯防止を図る制度として注目されています。
特に薬物事犯など再犯率が高い犯罪において、社会復帰を促す有効な手段とされています。
この記事では、一部執行猶予制度の概要や対象者、要件などについて解説いたします。
一部執行猶予制度とは、宣告された一部の刑の執行だけが猶予される制度です。
この制度では、被告人に対して社会の中で一定の矯正機会を与えるとともに、社会復帰を支援する目的があります。
特に再犯防止や更生の意欲を評価する際に活用されることが多く、薬物事件などで適用されるケースが多く見られます。
全部執行猶予制度は、判決時に科された刑のすべてが猶予される仕組みです。
一方で、一部執行猶予制度では刑の一部を服役した上で、残りの刑を猶予します。
一部執行猶予制度が導入される以前、判決の内容はすべて実刑か、全部執行猶予制度のどちらかでした。
つまり、全部執行猶予の場合は服役せずに社会内で更生を目指すのに対し、一部執行猶予では一定期間の服役を通じて反省を促した後、社会復帰を図る点に大きな違いがあります。
一部執行猶予制度は、2016年の刑法改正により導入されました。
この制度は、薬物使用などの犯罪(以下、「薬物法上」)とそれ以外(以下、「刑法上」)とで内容が異なります。
ここからの概要は、この2つに分けて解説していきます。
一部執行猶予制度には、以下の3つが対象となります。
上記のように初犯の被告人(1・2)だけでなく、再犯者(3)も条件を満たせば適用されることがあります。
ただし、重大犯罪や組織的犯罪の場合は対象外となることが多く、適用には慎重な判断が必要です。
また、社会復帰支援が必要とされる被告人に対しては、治療や更生プログラムへの参加が条件となる場合があります。
社会内での再出発を支援する観点から、裁判所は更生の可能性や社会環境などを総合的に考慮して決定します。
対象者が3年以下の懲役または禁錮を言い渡される場合において、1年以上5年以下の間、その刑の執行を猶予することができます。
たとえば、懲役3年の刑を言い渡された場合、そのうち1年を実際に服役し、残りの2年を4年間猶予するなどのかたちが取られます。
服役期間の長さは事件の内容や被告人の反省状況、社会復帰の準備状況などを踏まえて決められます。
一部執行猶予を受けるには、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき、という要件があります。
さらに、被告人が更生の見込みがあると認められる必要があります。
具体的には、犯行動機や計画性の有無、犯人の反省の程度、監督者の有無、被告人の境遇などが考慮されます。
また、裁判所は執行猶予期間中の保護観察を付すことができ、保護観察中に遵守事項に違反すると執行猶予が取り消されることもあります。
薬物事犯における一部執行猶予制度は、大麻、覚せい剤、麻薬等の規制薬物等の使用や単純所持等の罪を犯した者が対象となります。
薬物依存症の被告人に対しては、治療やリハビリテーションの機会を与えるために活用されることが多いです。
たとえば、一定期間服役させることで依存症の根絶を図り、その後の猶予期間中に治療プログラムや保護観察を組み合わせて再発防止を目指します。
また、薬物法上の一部執行猶予制度では、執行猶予の期間中の保護観察が必須です。
裁判所は、被告人の治療意欲や家族・社会からの支援状況などを重視して制度適用を判断します。
この制度により、薬物事犯者が社会に復帰する道筋が用意されるとともに、再犯率の低減が期待されています。
一部執行猶予制度は、刑の一部を執行しつつ残りを猶予することで、被告人の更生と社会復帰を支援する制度です。
特に薬物事件などでは再犯防止に寄与する重要な役割を果たしています。
この制度を活用することで、被告人が社会に戻りやすい環境を整えることが期待されています。